作中でショーンたちから時にからかわれ、時に深い愛情を注がれる牧場のおじさん。視聴者の多くが気にかける「彼の本名は何なのか」という疑問ですが、アードマン・アニメーションズの公式設定およびクレジットにおける表記は一貫して「The Farmer(牧場主)」となっています。固有のフルネームがあえて名付けられていない理由は、彼を「特定の誰か」ではなく、イギリスののどかな田園地帯に暮らす普遍的な人間像の象徴として描くためです。
年齢については公式な実年齢の明記はないものの、後頭部の薄毛具合や佇まい、英国地方都市の個人農家という生活実態から、おおむね40代後半から50代半ばの男性としてデザインされています。極度の近眼、少し猫背でズボラ、新しいガジェットや流行にすぐ飛びついては失敗する性格は、どこか憎めない中年男性の典型です。
そんな牧場主の正体に関して、全世界のファンに最大の衝撃を与えたのが、2015年公開の長編映画『映画 ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』で明かされたエピソードです。ショーンたちのいたずらが原因で大都会へ転落し、記憶喪失に陥った牧場主は、羊の毛刈り技術を応用して偶然ヘアサロンで客の髪をカット。これが都会のセレブたちの間で「奇抜でアヴァンギャルドな天才スタイリスト」として大絶賛され、「ミスターX(Mr. X)」という名のカリスマ美容師として瞬く間に時代の寵児へ上り詰めました。羊の毛を刈る粗野なスキルが都会の最先端ファッションシーンを席巻するという、痛烈な風刺とユーモアが込められた裏設定です。