夕餉の膳を彩るのは、この地が誇る最高峰の恵み、飛騨牛だ。取材陣の前に運ばれてきたのは、見事なサシが均一に入った深紅の肉片。熱せられた陶板の上に脂が落ちると、香ばしい煙とともに食欲をそそる甘い香りが立ちのぼる。火を通しすぎず、芯にほんのりと赤みを残した状態で口へ運ぶ。噛みしめるまでもなく、体温でふわりととろけ、濃厚な旨みと上質な脂の甘さが舌全体を支配した。
「素材の持つ力を極限まで引き出すため、火入れの加減と出汁の輪郭には一切の妥協を排しています」と料理人は語る。単に肉の質だけに頼るのではない。地元の採れたて山菜や清流が育んだ川魚、そして契約農家から届く白米に至るまで、飛騨の風土が重層的な味わいとなって皿の上に表現されている。地元の銘酒をちびりと含み、肉の余韻を洗い流す。滋味深い料理の数々は、胃袋だけでなく心まで満たしていく。