クマ類の寿命を語る上で欠かせないのが、野生環境と飼育下における劇的な環境格差です。野生下では気候変動、エサの豊凶、怪我、感染症、そして同種間闘争などの過酷な淘汰圧が常に加わります。一方で、適切な温度管理と栄養価の高い飼料、先端医療が提供される動物園などの施設では、生物学的限界に近い年齢まで延命することが可能です。
国内に生息する代表種であるツキノワグマの平均寿命は、野生下ではおよそ15〜20年と見積もられています。野生環境で25歳を超える個体は極めて稀であり、発見されれば学術的な注目を集めるレベルです。対照的に飼育下では30〜35年が標準的な到達点となり、適切なケアがあれば35歳を突破する事例も報告されています。
一方、より体格の大きなヒグマの野生と飼育下の寿命を比較すると、野生の平均は20〜30年程度です。北海道のヒグマ研究チームによる長期追跡データでも、野生で30歳を超える長寿個体は全体の数パーセントに過ぎません。しかし飼育下では35〜45年近く生きる事例が多々見られ、のぼりべつクマ牧場などの専門飼育施設では40歳を超えて余生を送る個体の健康管理記録が蓄積されています。
世界に目を向けると、極限環境に生きるホッキョクグマの寿命と死因はさらに際立った対比を示します。野生のホッキョクグマの平均寿命は15〜18年程度、長くても20代前半で海氷の減少による獲物(アザラシ)の捕獲失敗や飢餓、歯の破損によって命を落とします。しかし飼育下では驚くべき記録が残されています。カナダのアシニボイン公園動物園で飼育されていたメスのホッキョクグマ「デビー」は、42歳まで生き抜き、クマの寿命に関するギネス世界記録として公式認定されました。通常種のホッキョクグマの野生寿命の倍以上を生きたこの事例は、外敵と飢餓のない保護環境がいかに哺乳類の寿命を延伸させるかを雄弁に物語っています。