「猫の口の中を覗いたら、黒い斑点や赤くただれた部分がある」という相談は、動物病院の診察室でも特に多い訴えの一つです。まずは飼い主が最も不安を抱く「黒いシミ」と「赤み・腫れ」の正体を医学的な観点から整理します。
平らな黒い斑点「単純黒子」と悪性腫瘍「メラノーマ」の違い
口唇や歯肉、上あごに見られる猫の口の中の黒いシミの多くは、「単純黒子(レンチゴ)」と呼ばれる良性の色素沈着です。特にオレンジ系の被毛を持つ茶トラ、三毛猫、サビ猫では、1歳を過ぎた頃からメラニン色素が沈着し、黒いそばかすのような斑点が現れやすくなります。これらは完全に平らで、出血や痛みを伴わず、猫自身も気にする様子がなければ過度な心配はいりません。
しかし、注意しなければならないのが口腔内メラノーマの早期発見です。黒い部分がわずかでも盛り上がっている、輪郭がギザギザとして左右非対称である、短期間で急激に大きくなるといった特徴がある場合、悪性黒色腫の可能性があります。猫の口腔内メラノーマは犬に比べて発症頻度こそ低いものの、浸潤性が高く転移しやすいため、発見が遅れると予後が非常に厳しくなります。「平坦か、それとも隆起しているか」が、初期段階における極めて重要な観察ポイントです。
「赤い腫れ」は単なる炎症か?悪性腫瘍の始まりか
一方、猫の口の中の赤い腫れが見られる場合、生理的な現象ではなく何らかの病変が生じていると捉えるべきです。軽度の歯肉炎であれば歯と歯茎の境目が線状に赤くなる程度ですが、口腔粘膜全体が赤黒く腫れ上がっている、カリフラワー状に組織が増殖している場合は警戒が必要です。
口の中にできる腫瘤(できもの)には、良性の「エプーリス(歯肉腫)」や炎症性ポリープのほか、悪性の「扁平上皮癌」や「線維肉腫」があります。良性の腫瘍であっても、大きくなれば咀嚼を邪魔して出血や二次感染を引き起こします。赤みを帯びた腫れが2週間以上引かない場合は、自然治癒を期待せず組織生検を含めた精密検査を検討する必要があります。