意識が薄れ、深い眠りへと沈みかけていく境界線上で突然発生する手足の跳ね上がり――この現象の正体こそが「ジャーキング現象(入眠時ミオクローヌス:Hypnic Jerk)」である。「ミオクローヌス」とは、筋肉が急激に収縮することによって生じる素早い不随意運動を指す医学用語であり、しゃっくり(横隔膜のミオクローヌス)と同じカテゴリーに分類される生理現象だ。
では、なぜ入眠という極めてリラックスすべきタイミングで、筋肉の激しい収縮が起きるのだろうか。その根底には、大脳皮質と脳幹(網様体)の間で交わされる「神経伝達のタイムラグ(誤作動)」が存在する。
人間が入眠するプロセスにおいて、脳波は覚醒状態からノンレム睡眠(浅い睡眠段階であるステージ1)へと移行する。このとき、脳の指令中枢は全身の筋肉に対して「緊張を解いて脱力せよ」というブレーキ信号(下行性抑制シグナル)を脊髄を経由して送り出す。しかし、過労や神経の高ぶりによって大脳が中途半端に覚醒していると、運動制御を司る神経ネットワークが混乱を起こす。筋肉が急速に弛緩していく状態を、脳が「身体がバランスを崩して落下している」「外敵の危険に晒されている」と錯覚し、姿勢を立て直そうとして手足の筋肉へ瞬間的な収縮命令を誤放電してしまうのだ。
多くの人が「階段を踏み外す夢」や「ビルの屋上から真っ逆さまに落ちる感覚」とともにビクッと飛び起きるのは、この脳の誤認が引き金となっている。感覚の遮断と筋弛緩のタイミングがほんの数ミリ秒ズレるだけで、脳内ではあたかも現実の落下事故が起きたかのようなアラートが鳴り響くのである。