現代の絵本で定着している舌切り雀あらすじは、明治以降に児童文学として大幅に脱色・漂白されたものです。障子の糊(米糊)を勝手に食べた雀に対し、怒り狂ったおばあさんが障子鋏で舌をチョン切って山へ追い払う。傷ついた雀を案じて山へ分け入ったおじいさんが「雀のお宿」で温かくもてなされ、大小二つのつづらから慎ましく小さい方を選んで持ち帰り、中から金銀財宝が出てくる。それを真似た欲張りな婆が大きいつづらを奪い、中からお化けが現れて腰を抜かして改心する――これが一般的な筋書きです。
しかし、民俗資料や古典文学が記録する舌切り雀真相は、児童向けの牧歌的なおとぎ話とは大きく異なります。平安末期から鎌倉初期に成立した説話集『宇治拾遺物語』の巻三「雀の仇を報ずること(腰折雀)」や、江戸時代の赤本・青本と呼ばれる草双紙を検証すると、そこには血生臭い原作の怖い結末が容赦なく刻まれていました。
江戸中期の版本『舌切雀』の記述によれば、おばあさんが開けた大きいつづらから飛び出したのは、愛嬌のある一つ目小僧などではありません。大蛇、百足(ムカデ)、無数の毒蜂、そして骨を砕く鬼や悪霊の類でした。逃げ惑うおばあさんは山中で肉を食い破られ、血煙を上げて絶命するか、あるいは恐怖のあまり発狂して谷底へ転落死するという結末が主流だったのです。教訓を与えるための教育的配慮など微塵もなく、タブーを犯した侵入者を異界の住人が徹底的に殲滅するという、原初の神話が持つ残酷な粛清がそこにありました。