ハクというキャラクターを語る上で欠かせないのが、「声変わり(変声期)」との時間との戦いです。男子中学生の13歳という年齢は、まさに身体と声帯が急激に大人の男性へと変化する極めて不安定な過渡期にあたります。
入野さん自身も後年のインタビューや手記において、「収録当時はまさに声が変わるギリギリのタイミングだった」と振り返っています。アフレコ期間中に声のトーンが急激に低くなってしまえば、ハクが持つ神聖で透明感あふれる少年の響きが失われてしまう危険性を孕んでいました。
しかし、結果としてその「危うい変声期の境目」にあったことこそが、ハクというキャラクターに唯一無二の命を吹き込むことになりました。幼い子どものハイトーンボイスから、少しずつ青年の落ち着きを帯び始めた刹那のグラデーションは、人間の枠を超えた「川の主(神)」としての神秘性と見事に合致したのです。奇跡的なタイミングで収録されたその声は、スタジオジブリの歴史に刻まれる名演となりました。