日常会話において「自己愛が強い」「プライドが高い」と表現される性格傾向と、医学的なパーソナリティ障害の間には明確な一線が存在する。米国精神医学会(APA)が策定した『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』において、自己愛性パーソナリティ障害は「誇大性(空想または行動における)」「称賛への過剰な欲求」「共感性の欠如」を広範な状況で示すものと定義されている。
臨床診断においては、成人早期までに始まり、以下の9項目のうち5つ以上が長期にわたり持続しているかどうかが判断基準となる。
- 自分が重要であるという誇大な感覚(業績や才能の過大評価、見合った業績がないのに優れていると認められることを期待する)
- 果てしない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想に囚われている
- 自分が「特別」であり、唯一無二の存在であり、他の特別な地位の高い人(または施設)にしか理解されない、または関係を持つべきだと信じている
- 過剰な称賛を要求する
- 特権意識(特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する)
- 対人関係で相手を不当に搾取する(自分自身の目的を達成するために他者を利用する)
- 共感の欠如:他者の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、または気づこうとしない
- しばしば他者に嫉妬する、または他者が自分に嫉妬していると思い込む
- 尊大で傲慢な態度、または行動
疫学的なデータを見ると、一般人口における有病率は約0.5%〜1%程度とされるが、臨床場面や企業組織を対象とした調査では2%〜16%に上ると報告される事例もある。また、診断される患者の約50%〜75%が男性で占められている点も特徴的だ。
近年の臨床心理学では、傲慢で尊大な態度を誇示する「顕在型(グランディオス)」だけでなく、一見すると内向的で控えめでありながら、過剰な被害者意識と隠された特権意識を持つ「潜在型(カバート)」の存在が広く認知されるようになった。どちらのタイプであっても、他者の感情を思いやる真の共感性が著しく欠落している点に変わりはない。