なぜFIFA(国際サッカー連盟)は、長年続いてきた夏の開催スケジュールを捨ててまで、11月下旬の開幕という異例の決断を下したのでしょうか。その最大の要因は、中東・ペルシャ湾岸地域が直面する夏の絶対的な猛暑リスクにありました。
通常、ワールドカップが開催される6月から7月にかけてのカタールは、日中の最高気温が40度から50度近くまで跳ね上がります。極端な高温に加え、湾岸特有の高い湿度が重なる環境下で90分間のフルタイムを走ることは、トップアスリートであっても熱中症や脱水症状、最悪の場合は心肺停止を引き起こす極めて危険な行為です。FIFAの医療委員会による現地調査でも「夏季のプレーは健康被害のリスクが極めて高い」との最終警告が出されていました。
当初、カタール側は「スタジアム内に最新鋭の冷房システムを完備するため夏開催でも問題ない」と主張していました。しかし、スタジアム内部を冷却できたとしても、世界中から集まる100万人規模の観衆が移動するファンゾーン、公共交通機関、練習拠点の酷暑までは完全に制御できません。その結果、気象データ上で平均最高気温が25度から29度前後まで低下する「11月中旬から12月中旬」への日程変更が2015年に正式決定されたのです。