ソーシャルメディアやレビューサイトを観察すると、自宅がん検査キットに対する意見は真っ向から二分されています。「家族に勧められて受けてみたら、自覚症状のない初期病変が見つかり命拾いした」という称賛がある一方、「判定が高リスクだったので総合病院を駆けずり回ったが、あらゆる精密検査で異常が見つからず、数十万円の自費診療費と強いストレスだけが残った」という悲痛な手記も散見されます。
特にメディア露出の多い線虫がん検査を巡っては、日本癌治療学会や日本癌学会の学術総会において、臨床医有志による検証データが発表され波紋を広げました。発表された臨床報告の一部では、すでにPET-CTや内視鏡で確定診断されたがん患者の検体に対し、期待された確率で陽性を示さなかった事例や、逆に疑いのない健常者が多数陽性と判定された実態が報告されています。これに対し検査会社側は「検体の保管温度や輸送プロセスの不備が生物の反応に影響した」「学会報告は母集団の選定に偏りがある」と反論を展開しており、エビデンスの解釈を巡る応酬は今なお続いています。
なぜこのようなギャップが生じるのでしょうか。根底にあるのは、がんスクリーニングにおける「偽陽性」と「偽陰性」の数学的宿命です。有病率(集団の中で実際に病気にかかっている人の割合)が例えば0.5%程度と極めて低い集団に対して検査を行った場合、仮に感度・特異度がともに90%という高性能な検査であっても、陽性判定を受けた人の大半が「実際にはがんではない偽陽性」となるベイズ統計の壁が立ちはだかります。「判定が高リスク=即座に体内に腫瘍がある」という意味ではなく、あくまで「精密検査を受けるためのトリガー」に過ぎないという事実を、利用者の多くが見落としています。