なぜ、きのこは加熱や保存の工夫によって味わいが劇的に変わるのでしょうか。その答えは、きのこが持つ細胞構造と旨味成分の生成プロセスにあります。調理科学の分析によると、旨味が増すきのこ調理の理由は、細胞内に眠る「リボ核酸(RNA)」が加熱時に酵素の働きによって旨味物質である「5'-グアニル酸」へと分解される点にあります。
生の状態では、この酵素と核酸が別々の細胞膜に隔てられているため、強い旨味を感じることはできません。ここで決定的な役割を果たすのがきのこ冷凍保存テクニックです。きのこをマイナス18℃以下で凍結させると、水分が氷結晶となって膨張し、細胞壁を物理的に破壊します。解凍・加熱時に酵素と核酸が一気に結合し、生のきのこを直接加熱したときと比べてグアニル酸の生成量が約3倍に跳ね上がることが各種食品研究機関の測定で立証されています。
さらに加熱温度のコントロールも欠かせません。グアニル酸を生成する酵素が最も活性化するのは60℃〜70℃の温度帯です。いきなり沸騰した鍋に投入したり、超強火で一気に過熱したりすると酵素が働く前に失活してしまいます。弱火からじっくり温度を上げる、あるいはスープなら水からじっくり加熱するアプローチが、きのこのポテンシャルを極限まで引き出します。