煙突の基本原理として知られるのが、物理学における煙突効果の仕組みです。これは、筒状の空間内部にある暖かい空気の密度が、外部の冷たい空気の密度よりも低くなることで浮力が生じ、下部から上部へと強烈な上昇気流(ドラフト)が発生する現象を指します。
煙突が高ければ高いほど、また内部と外部の温度差が大きければ大きいほど、このドラフトは強力になります。暖炉やボイラーはこの自然換気力を利用して燃焼室に絶え間なく新鮮な酸素を送り込み、燃焼効率を最大化させています。煙突は単に煙を排出する筒ではなく、火力を維持するための「自然吸気ポンプ」として機能しているのです。
しかし、この優れた物理作用は一歩間違えれば致命的な大惨事の引き金となります。高層ビル火災における階段室やエレベーターシャフトは、まさに巨大な煙突そのものです。火災発生時、煙突効果によって煙と有毒ガス、火炎が秒速数メートルという猛烈な速度で上層階へ吸い上げられ、逃げ場を失った在館者を巻き込む原因となります。
家庭用の薪ストーブにおいても、最も恐れられる煙突火災の原因はここにあります。未乾燥の薪をくべたり空気調整を誤ったりすると、煙突内部に「クレオソート」と呼ばれる可燃性の煤やタールが大量に付着します。そこに強いドラフトが加わって燃焼室の炎が煙道内に吸い込まれると、内部のクレオソートに着火。煙突の内部温度は一気に1,000度近くまで跳ね上がり、煙突の接合部を焼き切って小屋裏や天井裏に延焼する危険な事故へと直結します。