日本歌謡史に燦然と輝く坂本九の代表曲『見上げてごらん夜の星を』ですが、その原点はレコード用のシングル曲ではなく、1960年に初演された同名のミュージカルの劇中主題歌でした。作詞を手がけた永六輔さんと、作曲を務めたいずみたくさんの黄金コンビによって紡ぎ出されたこの作品は、当時の日本社会が生み出していたある「過酷な現実」への強い問題意識からスタートしています。
当時の日本は高度経済成長期の入り口にあり、昼間は工場や商店で汗を流して働き、夜になると眠い目をこすりながら定時制高校に通う勤労青年たちが数多く存在していました。永六輔さんは実際に夜学の現場へ足を運び、貧困や孤独と闘いながらも学ぶことを諦めない若者たちの眼差しに深い感銘を受けたといいます。彼らのひたむきな姿、そして夜空を見上げて明日への希望を繋ぐリアルな心情を形にするために企画されたのが、ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』でした。
当初は伊藤素道とリリオ・リズム・エアーズが劇中で歌唱していましたが、1963年に坂本九さんがカバーシングルとしてリリースすると瞬く間に全国的な大ヒットを記録。同年の第5回日本レコード大賞で作詞賞・作曲賞を受賞し、坂本九さんの代名詞として日本のみならず世界中の人々に知られる名曲となりました。