新蘭の恋愛史を語るうえで、ライト層やアニメの特定回だけを追う視聴者の間でしばしば発生する重大な誤解が存在します。それが「新一がロンドンで告白した時点で二人は付き合い始めた」という錯覚です。
実際には、告白が行われた原作第72巻から、蘭が清水寺で返事をした第95巻に至るまで、単行本にして実に23巻分、アニメ放映期間では2011年6月から2019年1月までのおよそ7年半ものタイムラグが存在していました。
なぜこれほどのインターバルが必要だったのか。作中設定における最大のハードルは、「新一が普段は江戸川コナンの姿で蘭の隣に暮らしている」という構造的二重生活にありました。蘭としては面と向かって返事をしたいにもかかわらず、本人の姿を見ることができない。電話越しでは伝わらない温度感がある。一方の新一も、コナンとして蘭の日常を見守りながら、解毒薬のリスクがある以上、安易に姿を現して交際関係を深めるわけにはいかないという葛藤を抱えていました。
ファンの間では「あまりに引き延ばしが長いのではないか」と議論された時期もありましたが、この約7年半の空白があったからこそ、修学旅行という高校生としての正当な舞台装置において、二人が積み重ねた想いが爆発的なカタルシスを生み出したといえます。