国立競技場の再建計画を語る上で避けて通れないのが、2015年7月のザハ・ハディド案白紙撤回劇です。当初採用された故ザハ・ハディド氏のデザインは、巨大なキールアーチが特徴的な近未来型スタジアムでした。しかし、構造の特殊性から概算工費が当初想定の1300億円から2520億円へと跳ね上がり、国民的な批判を招く結果となりました。工期の大幅な遅延も確実視され、当時の安倍政権が計画の抜本的見直しを決断しました。
この危機的状況下で実施された再コンペにおいて、勝利を収めたのが「大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体(JV)」によるA案です。対抗馬となった伊東豊雄氏と竹中工務店・清水建設・大林組のグループ(B案)との激戦を制した最大の要因は、「徹底した工期短縮の実現性」と「総工費約1569億円への圧縮」でした。
審査では、施工を担当する大成建設の緻密な工程管理能力と、隈研吾氏が提示した「日本の伝統的な木造建築の知恵を活かした景観調和」が高く評価されました。外苑の森の木立に埋もれるような低層化(高さ約47メートル)を実現し、ザハ案の圧迫感から一転して「威圧感を与えない建築」を提示したことが、決定打となったのです。