ネット上のまとめや怪談系コンテンツでは、センセーショナリズムを煽るあまり、誤った情報が拡散されるケースが後を絶ちません。当編集部が文献調査に基づき検証したところ、広く信じられている俗説のなかに明白な誤解が複数確認されました。
筆頭に挙げられる誤解が、「ペロー版でも王子がキスをして目覚めた」という言説です。ペローのテクストを正確に読むと、王子はキスをしていません。100年の呪いの期限がちょうど切れた瞬間に王子が寝室に入り、あまりの神々しさに思わず姫の足元に跪いたところ、魔法が解けて姫自らが目を覚まし、「あなたなのですか、王子様? ずいぶん長くお待ちいたしました」と語りかけるのです。キスによって呪いを破るという構図は、グリム童話の一部版や後世の演劇的演出が定着させたものです。
また、「眠れる森の美女の本来の名前がオーロラだった」という認識も誤りです。先述の通り、シャルル・ペローの物語において眠っていた王女に名前はなく、目覚めた王女が王子との間に極秘裏にもうけた長女の名が「オーロラ(フランス語でアロール、夜明けの意)」でした。チャイコフスキーが台本作家イワン・フセヴォロジスキーと共に手掛けたバレエ版において、王女自身の名前として「オーロラ姫」が採用され、それがディズニーによって世界標準化されたという経緯があります。
さらに、ディズニー版のあらすじでは、16歳の呪いから目覚めるまでの期間は「100年」ではなく、フィリップ王子が捕らえられて脱出するまでの「わずか数時間から数日」に短縮されています。もし100年間眠らせたままにすれば、森で恋に落ちたフィリップ王子は老衰で他界してしまうため、ドラマツルギー上の要請から時間設定が大胆に改変されたのです。