前胸部キャッチ症候群の最大の特徴は、「息を吸い込んだ瞬間にピンポイントで突き刺すような痛みが増悪する」という点にあります。医学用語ではこれを「吸気時増悪(pleuritic pain)」と呼びますが、痛む場所は指一本で「ここが痛い」と指し示せるほど局所的であることが大半です。多くは左胸の下部、肋骨と肋骨の隙間や心尖部の付近に生じるため、患者本人は「心臓が掴まれた(キャッチされた)ような感覚」を抱きます。
発作は激しい運動中ではなく、むしろ椅子に座ってスマートフォンを操作しているときや、リラックスしてテレビを見ているときなど、安静時に不意に訪れる傾向があります。痛みそのものは極めて鋭利で息を吸うことすらためらわれますが、その持続時間は極めて短く、数秒から長くても2〜3分程度で跡形もなく消え去ります。痛みが引いた後は何事もなかったかのように通常の呼吸に戻れる点が、組織の壊死を伴う心筋梗塞などとは根本的に異なります。
心臓そのものには痛覚神経が乏しく、心筋の虚血による痛みは「胸全体が締め付けられる」「重い岩が乗ったような鈍痛」として自覚されるのが定説です。したがって、「針で刺されたようなチクチク感」や「電気が走るような一瞬の鋭痛」である場合、心臓の筋肉や冠動脈そのものの疾患である可能性は医学的に極めて低いと評価されています。