料理の基本として広く信じられている「切ったナスを長時間水にさらしてアク抜きをする」という手順には、実は大きな盲点が存在します。ナスのアクの正体であるポリフェノール類(クロロゲン酸など)は水溶性ですが、水に長く浸けすぎると断面から余分な水分が果肉へ浸入し、細胞が水ぶくれを起こしてしまいます。
水気をたっぷり含んだナスをそのままフライパンに入れると、油の温度が急激に低下して焼き色がつきにくくなるだけでなく、蒸気圧のバランスが崩れて油をより多く吸い込む原因になります。現在流通している新鮮なナスはエグみが非常に少ないため、切ってすぐに加熱調理する場合は水さらしを省略するか、浸けても1〜2分程度にとどめ、ペーパータオルで表面の水分を完全に拭き取ることが不可欠です。
また、皮に細かく格子状の切り込み(隠し包丁)を入れる作業は、単なる見た目の美しさだけでなく、皮の硬い繊維を断ち切って熱伝導を早め、短時間で中心まで均一に火を通すための重要な工学的アプローチです。