夢の多層構造と精神の迷宮は、映画カルチャーの中でも繰り返し描かれてきた。クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション』では、他者の潜在意識へ潜入しアイデアを植え付ける過程で、自らのトラウマが生み出した影(シャドウ)に襲撃される描写が印象的だ。夢の中で起きる恐怖体験がいかに現実の行動を支配し得るかを、本作は鮮やかに可視化している。
また、巨匠の晩年を彩る映画『夢』(黒澤明監督作品)では、個人の夢を通じて人類の宿業や自然への畏怖、死生観が詩的かつ恐ろしい映像美で綴られた。これらの作品が示すように、悪夢は単なる個人の脳内現象ではなく、他者や世界と見えない糸で結ばれた表現空間でもあるのだ。