イルミナティカードがオカルト界の金字塔として定着した最大の契機は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件でした。ゲーム内に存在する「Terrorist Nuke(テロリストの核)」と題されたカードには、立ち並ぶ高層ツインタワーの中層部が激しく爆発し、黒煙を吹き上げる光景が描かれています。さらに「Pentagon(国防総省)」のカードには、まさに五角形の建物の中央部から火の手が上がる様子が鮮明に描かれていました。
発売されたのは事件から6年も前の1995年です。このあまりに不気味な一致は、瞬く間に世界中のネットコミュニティを駆け巡りました。さらにその戦慄の解釈を決定づけたのが、2020年に世界中を襲った新型コロナウイルス禍です。「Epidemic(感染症)」というカードには、散乱する遺体や隔離用ボディバッグの奥に「Quarantine(隔離)」の標識が描かれており、未知のウイルスが引き起こす都市封鎖を予見していたと大騒ぎになりました。
このカードを世に送り出したのは、米テキサス州オースティンに拠点を置く老舗ゲーム会社スティーブ・ジャクソン・ゲームズです。同社は1980年代からテーブルトークRPGや戦略シミュレーションを手掛けており、本作は1975年のカルト的陰謀小説『イルミナティ三部作』をモチーフに開発されたブラックユーモア満載の風刺ゲームでした。
一部の愛好家の間で「開発者が本物のフリーメイソンやイルミナティの内部告発者から情報を得ていた」と語られる最大の根拠は、1990年に起きた米シークレットサービスによる同社への家宅捜索事件です。オフィスからPCや原稿が押収されたこの事件は、当時「秘密計画の漏洩を恐れた政府の圧力」と騒がれました。しかし、法廷記録が示す実際の理由は、同社に所属していたフリーランスのハッカーがベル・サウス社の電話システム情報をハッカー系BBSに転載した容疑であり、ゲームの絵柄そのものを差し押さえたわけではありませんでした。にもかかわらず、この公権力介入の記憶がドラマチックに脚色され、カードの予言性を裏付ける神話へと変貌を遂げたのです。