本作の炎上劇の原点は、集英社のWebマガジン「よみタイ」での連載にあります。更新されるたびにX(旧Twitter)などのSNSでトレンド入りを果たし、コメント欄には数千件規模の熱狂的な意見が殺到しました。読者の心をこれほどまでに揺さぶった最大の要因は、「徹底的な当事者視点のスイッチ構造」にあります。
物語の前半は、ごく普通のサラリーマンである夫・康夫(やすお)の視点で進みます。康夫は暴力を振るうわけでもなく、浮気をするわけでもない「自称・優しい夫」です。それにもかかわらず、ある朝を境に妻・美咲(みさき)から完全に無視され、理由も分からないまま冷え切った生活を余儀なくされます。この段階では「理由も言わずに夫を精神的に追い詰める妻が理不尽で怖い」という、夫への同情と妻への批判が目立ちました。
ところが物語が後半に入り、妻・美咲の視点へと切り替わった瞬間、読者の空気は一変します。明かされたのは、美咲が日常的に浴びせられていた康夫の無自覚な心無い言葉と、ワンオペ育児への無理解でした。この視点転換によって読者の感情移入先が激しく揺れ動き、コメント欄は夫擁護派と妻擁護派による泥沼の論争へと突入していきました。