園芸相談の現場において、3月中旬から下旬にかけて最も多く寄せられる相談が「袋の表記通りに種をまいたのに、2週間経ってもまったく発芽しない」という悲鳴です。タキイ種苗やサカタのタネなどの大手種苗会社が公表している栽培データや農協(JA)の指導指針を紐解くと、初心者の実に7割以上が「気温」と「地温」を取り違えているという現実が浮かび上がってきます。
3月の天候は「三寒四温」と呼ばれる通り、日中の最高気温が20℃近くまで急上昇して小春日和となった翌日に、真冬並みの寒気団が南下して朝の最低気温が氷点下近くまで冷え込むケースが珍しくありません。植物の種子が休眠から目覚めて吸水・細胞分裂を始めるトリガーとなるのは、日中の空気の暖かさではなく、土壌の深さ数センチにおける平均地温です。多くの春野菜の発芽適温は15℃〜25℃ですが、3月上旬から中旬の裸地(マルチやトンネルを施していない土)の平均地温は、晴天日であっても8℃〜12℃程度にとどまります。
「日差しが暖かいから大丈夫だろう」と早合点して直まきした種子は、冷たく湿った土の中で発芽プロセスを進めることができず、土壌菌に侵されて腐敗します。さらに、4月上旬にかけて発生する「寒の戻り」や「遅霜(おそじも)」は、せっかく芽を出したばかりの繊細な子葉を一晩で枯死させる最大の脅威です。3月の種まきを成功させるための鉄則は、気象庁の長期予報を注視しつつ、遅霜対策と寒の戻り防止策として不織布のベタ掛けやビニールトンネルによる積極的な加温・保温環境をあらかじめ設計しておくことに尽きます。