パスカルはなぜ、人間を比喩する対象として樫の大木や頑丈な竹ではなく、水辺に自生する細く頼りない植物「葦(あし/よし)」を選んだのでしょうか。
その決定的な理由は、自然界における「圧倒的な物理的脆弱さ」を際立たせるためです。葦は風が吹けばたやすく揺れ、強い衝撃を受ければ簡単に折れてしまいます。パスカル自身、著作の中で次のように描写しています。
「人間を粉砕するために、全世界が武装する必要はない。一筋の蒸気、一滴の水でも人間を殺すには十分である」
病弱で生涯激しい身体の痛みに苦しめられたパスカルにとって、人間の肉体の脆さは切実な実感でした。天変地異や病原菌、ほんのわずかな事故で命を落とす人間の肉体は、まさに風にそよぐ一本の葦にほかなりません。この極限の頼りなさを提示することで、直後に語られる「思考の気高さ」とのコントラストを鮮烈に際立たせているのです。