「生後4〜5ヶ月まではまとまって寝てくれていたのに、生後6ヶ月に入った途端に1時間おきにギャン泣きするようになった」という相談は、小児睡眠外来でも最も頻度の高い訴えの一つです。この急変の背景には、赤ちゃんの心身が劇的な飛躍を遂げる「生後6ヶ月の睡眠退行」が存在します。
睡眠退行が生じる直接的な理由は、単一の要素ではなく、認知発達・運動発達・神経生理学的変化の3つが同時に重なり合う点にあります。
第1に、睡眠サイクルの大人化です。生後3ヶ月頃までの赤ちゃんは、眠りに落ちるとすぐに深いノンレム睡眠に入るサイクルを持ちますが、生後半年を迎えると、大人と同様に「浅い睡眠(レム睡眠)」と「深い睡眠(ノンレム睡眠)」を約40〜60分の周期で繰り返すようになります。浅い眠りに切り替わったタイミングで物音や体勢の違和感に気づきやすくなり、自力で再入眠できない赤ちゃんが泣いて助けを求めてしまうのです。
第2に、運動機能とメンタルリープ(認知の飛躍)の連動です。生後6ヶ月は寝返りが自在になり、人によっては腰がすわってお座りの練習を始める時期にあたります。昼間に習得した新たな運動神経の興奮は夜間の脳内でも処理され続けるため、睡眠中に無意識に寝返りを打ってしまい、元の姿勢に戻れずにパニックを起こして目を覚まします。
第3に、「分離不安」の萌芽が挙げられます。生後6ヶ月頃から赤ちゃんは「自分と養育者は別の存在である」という客観的な認知を獲得し始めます。同時に、目の前からいなくなった親がどこかに存在し続けていることを理解する「対象の永続性」が発達するため、夜中に目が覚めて隣に親の姿や気配がないことを察知した瞬間、強い恐怖と寂しさから泣き叫ぶ構造が生まれます。