国宝・彦根城のほど近く、静けさに包まれた木々の奥にひっそりと佇む一軒の武家屋敷がある。後に江戸幕府の大老として激動の時代を動かした井伊直弼が、不遇とも言える青年期を過ごした「埋木舎(うもれぎのや)」だ。世に出る日を待ちながら、文武や茶道、和歌に没頭した15年間。彼が自らを「世の中の役に立たぬ埋もれ木」と例えたことこそが、この名菓の名の由来となっている。
滋賀県彦根市で創業した老舗「菓匠 糸重」は、この歴史的背景と直弼の侘び寂びの精神を和菓子として見事に結実させた。時代に流されず、自身の美学を愚直に貫いた直弼の志は、一粒の菓子の中にいまも脈々と息づいている。