地域社会に溶け込み、誰からも恨みを買うような覚えのなかった松本さん一家が、なぜこれほど凄惨な目に遭わなければならなかったのか。逮捕後の取り調べや公判廷で明かされた犯行の動機は、余りにも身勝手で短絡的なものでした。
犯行に及んだ中国人留学生グループの主犯格は楊寧(当時23歳)、王豊駿(当時21歳)、そして魏巍(当時23歳)の3人です。首謀者である楊寧と王豊駿は、仕送りの途絶や学費の滞納、ギャンブルや夜遊びによる散財で深刻な生活苦に陥っていました。さらに不法滞在となり強制送還の恐怖に怯えるなか、「大金を手に入れて中国に錦を飾りたい」「金持ちの日本人を襲えば簡単に数千万円は奪える」という短絡的な妄想を抱くに至ります。
元人民解放軍の特殊部隊出身で腕っぷしの強かった魏巍は、日本語学校仲間であった楊寧らから「強盗の運転手と見張り役を手伝えば謝礼を弾む」と持ちかけられ犯行に加担しました。標的選定の理由は、松本さん宅の駐車場に高級外車(ベンツ)が停められており、一見して裕福そうに見えたというだけの理由でした。事前の綿密な資産調査や個人的な怨恨関係は一切なく、完全な「無差別的ターゲット選定」だったのです。
しかし、一家4人の尊い命を無慈悲に奪って彼らが松本さん宅から奪い取った金品は、わずか現金約3万7,000円と預金通帳などに過ぎませんでした。銀行口座からの現金引き出しも暗証番号の不一致や限度額設定に阻まれて失敗。奪ったベンツすら埠頭近くに放置され、4人の命の代償が数万円にしかならなかったという事実は、法廷にいた裁判官や傍聴人を震撼させました。