苦痛を劇的に排除できる一方で、静脈内鎮静法には見過ごせない身体的リスクが存在する。日本消化器内視鏡学会の事故報告集計でも指摘されている通り、内視鏡検査に関連する重大な偶発症の多くは、内視鏡のスコープによる物理的な穿孔だけでなく、鎮静剤による循環器・呼吸器系のトラブルが占めている。
最も警戒すべき胃カメラ鎮静剤の危険性と副作用は「呼吸抑制」と「血圧低下」だ。鎮静が過度に深くなると、舌が気道に落ち込む「舌根沈下」を引き起こし、無呼吸状態に陥る危険がある。血中酸素飽和度(SpO2)が急激に低下した場合、迅速な酸素投与や気道確保、あるいは拮抗薬(ベンゾジアゼピン系鎮静剤の効果を打ち消すフルマゼニルなど)の投与を行わなければ、不可逆的な低酸素脳症や心停止を招きかねない。
身体への影響だけでなく、社会生活上の制約という胃カメラ全身麻酔のデメリットも無視できない。代表的なものが胃カメラ麻酔後の運転制限だ。鎮静剤の血中濃度が下がり、本人は「完全に頭がスッキリした」と感じていても、脳の微小な認知・反射能力は数時間にわたって鈍化している。これは「ほろ酔い運転」や睡眠薬服用直後の状態に極めて近い。そのため、日本消化器内視鏡学会の指針に沿う全ての医療機関では、検査当日の自動車、バイク、自転車の運転を終日禁止している。虚偽の申告をして自家用車で来院した場合、検査自体を拒否されるケースも珍しくない。
また、胃カメラ鎮静剤から覚めるまでの時間として、検査終了後に院内のリカバリーベッドで最低でも30分から1時間程度の安静臥床が義務付けられる。半日仕事のスケジュールを空けておく必要があり、多忙を極めるビジネスパーソンにとっては、タイムパフォーマンスの面で制約が生じる点も留意しておくべきだ。