『エール』は実話に基づきながらも、ドラマとしてのエンターテインメント性を高めるために数々の劇的な脚色が加えられています。古関裕而記念館の記録資料や公式伝記『鐘よ鳴り響け 古関裕而自伝』を紐解くと、史実との興味深いギャップが浮き彫りになります。
第一の相違点は、古山裕一の実家である「喜多三呉服店」の状況です。ドラマでは裕一の父・三郎(演:唐沢寿明)の人の良さによる融資の焦げ付きが強調されましたが、史実の古関家は当時福島市街でも有数の大呉服店であり、裕一が音楽に没頭できた背景には、実家の財力によって蓄音機や高価な楽譜が豊富に買い与えられていたという恵まれた環境がありました。
第二の相違点は、妻・金子さんとの交際と上京のスピード感です。ドラマでは文通から結婚、上京に至るまで様々な試練が描かれましたが、実際には1930年1月に金子さんから届いたファンレターをきっかけに猛烈な文通が始まり、同年6月には金子さんが福島を訪れてスピード婚約。わずか数カ月で上京するという、当時としては極めて先進的で情熱的な大恋愛でした。
ネット上では時折、「ドラマの裕一は頼りなさすぎるのではないか」という議論も見られますが、これは古関裕而氏の穏やかで争いを好まない温厚な人柄を、視聴者が共感しやすい主人公像としてデフォルメした結果と言えます。