獲れたての生きたワタリガニは非常に力が強く、鋭いはさみで挟まれると大怪我につながる恐れがあります。また、カニは強い危険を感じたり急激な熱に晒されたりすると、自ら脚を切り落とす「自切(じせつ)」を起こす習性があります。脚がもげるとそこから大切な旨味や肉汁が流出してしまうため、加熱前に確実に締めて動かなくさせる下処理が不可欠です。
現場の料理人が実践するもっとも安全かつ身質を損なわない方法は「氷水締め」です。たっぷりの氷水にワタリガニを完全に浸し、約15〜20分間放置します。カニは変温動物であるため、体温が急激に低下すると仮死状態(冬眠状態)に陥り、暴れることなく静かに動きを止めます。急ぎの場合は、口(目と目の間)の奥深くにアイスピックや千枚通しを一気に突き刺す「急所突き」も有効ですが、甲羅内部のミソを傷つけるリスクを避けるなら氷水締めが確実です。
動かなくなったら、清潔なタワシや歯ブラシを使い、甲羅の表面、脚の付け根、そして「ふんどし」と呼ばれる腹部の三角プレートの隙間に挟まった泥や砂を流水で素早く洗い流します。このとき、真水に長く浸けすぎるとカニの体液が浸透圧で抜けて水っぽくなるため、流水下で手早く汚れを落とすのがポイントです。