2020年代に入り、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞したことは、彼のキャリアにおける最大の凱歌となった。愛する妻を失い、静かな絶望の中で自らの喪失と対峙する舞台演出家・家福悠介の魂の旅路。多言語が交錯する車内で彼が見せた佇まいは、世界の映画批評家たちから絶賛された。
若い頃にミニシアターの暗闇で育んだ映画への偏愛、テレビ界の喧騒から離れて磨き上げたリアリズム、そして北野武ら異能の表現者たちと切り結んできた経験のすべてが、あの抑制された名演へと注ぎ込まれている。青年期の葛藤は決して無駄ではなかった。遠回りに見えた孤高の道こそが、彼をアジアを代表する世界最高峰の俳優へと押し上げる最短距離だったのだ。