安の滝という名称の由来には、この地に深く根付く阿仁マタギの文化と、身分違いの恋に引き裂かれた若者の切ない伝承が残されています。
江戸時代、この地に「安(やす)」という美しく心優しい娘が住んでいました。安は久保田藩の若い武士と恋に落ちますが、身分の格差ゆえに二人の仲は許されませんでした。引き裂かれた武士を思い、悲嘆に暮れた安はこの大滝の断崖から身を投げて命を絶ったと伝えられています。村人たちは彼女の悲劇を憐れみ、その霊を慰めるためにこの滝を「安の滝」と呼ぶようになりました。
現在でも、滝壺の周囲で静かに水音に耳を澄ませると、どこか哀愁を帯びた神聖な静寂を感じることができます。阿仁の厳しい自然の中で命の尊厳を見つめ続けてきたマタギたちが、山神への畏敬とともに大切に守り伝えてきた民俗史的な背景が、この滝の景観に深い奥行きを与えています。