都市景観や環境心理学の観点から犬矢来を分析すると、日本人が古来培ってきた「共生のための心理的バウンダリー(境界線)」の知恵が鮮明に浮かび上がります。
西洋の石造建築や現代のコンクリート都市では、私有地を守るために高固なブロック塀や鉄柵を築き、公と私を断絶させるアプローチが一般的です。しかし、木と紙で構成される京都の町家は、街路に対して開かれた構造を持っています。そこで生み出されたのが、視覚を完全に遮断するのではなく、しなやかな曲線で「緩やかに距離を取る」犬矢来という手法でした。
威圧感を与えることなく相手を自然に遠ざけ、建物を守りつつ街並みの美しさを引き立てる——。この「拒絶しない防犯」「美観と実用の調和」という思想は、防犯カメラやフェンスで過度に閉鎖的になりがちな現代の都市住宅設計にとっても、極めて示唆に富む空間デザインの教訓と言えます。