渡航を検討する旅行者が真っ先に抱く疑問が、「現在のボスニア・ヘルツェゴビナは安全なのか」という治安の実態です。結論から述べると、首都サラエボや主要観光都市モスタルの治安は、旅行者が普通に街歩きを楽しむ分には、パリやバルセロナといった西欧メガ観光都市よりもはるかに落ち着いており、凶悪事件に巻き込まれるリスクは極めて低いのが現実です。
外務省の海外安全情報においても、ボスニア・ヘルツェゴビナ全土は基本的に「レベル1:十分注意してください」に指定されています。これはタイやインドネシアなどの一般的な東南アジア渡航先と同水準であり、過度な恐怖心を抱く必要はありません。現地警察の公式発表資料によると、銃器を用いた一般市民への無差別犯罪は稀であり、日中の旧市街や観光エリアは女性の一人歩きも見られる平穏さを保っています。
ただし、特有のリスク要因が完全に消滅したわけではありません。最大の留意点は、1992年から1995年の内戦期に埋設された「未撤去地雷」の存在です。地雷対策機関(BHMAC)などの粘り強い撤去活動により、市街地や幹線道路周辺の安全性は確保されているものの、人気のない森林地帯や山間部、放置された廃屋には依然として危険地帯が点在しています。赤色にドクロマークが描かれた「PAZI MINE(地雷危険)」の警告板が設置されている区域や舗装されていない山道には、絶対に足を踏み入れてはなりません。
また、都市部における現実的なトラブルは、観光客を狙った「スリ・置き引き」です。特にサラエボのバシチャルシヤ(旧市街)やトラム(路面電車)の車内、モスタルのスタリ・モスト周辺の混雑路では、複数人のグループによる組織的なスリが報告されています。手荷物を体の前に抱える、多額の現金を持ち歩かないといった標準的な防犯意識が不可欠です。