一般的な手延べ麺の多くは、生地を伸ばす過程で乾燥を防ぐために植物油を塗る。しかし、この麺の製法は根本から異なる。油を一切用いず、純粋な水と塩、そして職人の卓越した感覚だけで生地の伸びを見極めていく。2対の棒に麺を掛け、八の字に交差させながら手作業でゆっくりと引き伸ばす「綾出し(あやだし)」と呼ばれる工程こそが、他にはない独特の平打ち形状と力強いコシを生み出す鍵だ。
早朝の作業場には、打ち粉が舞い、生地が空気を抱き込む「ピチッ、ピチッ」という心地よい音が響く。気温や湿度の微妙な変化に合わせて水加減を調整し、何度も休ませて熟成を促す。包丁で切るのではなく、伸ばし切ることで生まれる麺の表面は、どこまでも滑らかだ。つゆをしっかりと拾い上げながらも、喉を通り抜ける瞬間の爽快感は、まさに職人の執念が結実した食感と言える。