驚異の部屋の歴史を語る上で欠かせない中心人物が、16世紀末のプラハに宮廷を構えた神聖ローマ皇帝ルドルフ2世です。政治や戦争には無関心だったとされる一方、稀代の蒐集狂(コレクター)として名を馳せ、世界中から錬金術師、天文学者、芸術家、そして珍奇な品々を宮廷に集めました。
ルドルフ2世のコレクションには、ジュゼッペ・アルチンボルドが描いた野菜や果物の寄せ絵肖像画、精密を極めた天球儀、そして「一角獣(ユニコーン)の角」として珍重されたイッカクの牙などが収蔵されていました。当時の人々にとって、未知の品を集めることは「世界の縮図(ミクロコスモス)を手中に収め、自らが創造主のごとく君臨すること」を意味していたのです。
大航海時代の到来によって、ヨーロッパ人にとっての「世界の境界」は爆発的に広がりました。未だ見ぬ土地から運ばれてくる未知の植物や鉱物は、神の創造の神秘を解き明かす鍵と見なされ、貴族たちの知的好奇心と富の象徴として熱狂的に買い求められました。知性とオカルティズム、科学と魔術が未分化だった時代だからこそ成立した、妖しくも魅力的な熱狂の記録といえます。