マグロが遊泳を止められない理由は、エラの呼吸不全だけにとどまりません。流体力学と浮力の観点からも、マグロ 止まったら沈むという極めて過酷な身体構造上の宿命を背負っています。
多くの硬骨魚類は、体内に「浮き袋」を持ち、水中で中性浮力(浮きも沈みもしない状態)を保っています。しかし、高速で外洋を垂直・水平に駆け巡るクロマグロの生態において、水圧変化によって容積が激変する浮き袋は、急速潜行や急浮上の邪魔になります。そのため、成魚のクロマグロでは浮き袋が極めて小さく退化しているか、ほとんど機能していません。
海水(比重およそ1.025)に対し、マグロの肉体は重く引き締まった筋肉と高密度の骨格で構成されているため、平均比重はおよそ1.07〜1.09前後と水より重い状態にあります。つまり、何も外力を加えなければ、石のように海底へ沈んでいく構造です。
マグロはこのマイナス浮力を相殺するため、硬く発達した胸ビレを飛行機の主翼のように広げ、前進運動によって生じる「動的揚力」で泳層を維持しています。推進力を失った瞬間、揚力は瞬時にゼロとなり、マグロはコントロールを失って沈降を開始します。深海へ沈めば水圧の激変とさらなる水温低下に見舞われ、回復不可能なマグロ 酸欠 呼吸不全の悪循環に追い込まれることになります。