「水素」という名称が含まれていることから、多くの学習者が「水素分子の結合=水素結合」と勘違いしてしまう深刻な誤認が存在します。この2つは全く異なる結合様式であり、化学的な結合エネルギーの大きさも桁違いです。
水素分子(H₂)を形作っているのは、電子対を対等に分け合う共有結合です。共有結合の結合エネルギーは非常に大きく(H-H結合では約436 kJ/mol)、常温常圧で勝手に切断されることはありません。
一方、水素結合とは、電気陰性度の高い原子(フッ素 F、酸素 O、窒素 N)と共有結合した水素原子が、正の電荷を帯びることで、隣接する他の分子の非共有電子対との間に働く静電的な引力のことです。代表例として水(H₂O)の分子間結合が挙げられます。水分子の構造式自体は「H-O-H」という共有結合で描かれますが、水分子同士が集まる際には破線などで表される水素結合が働いています。
水素結合の結合エネルギーは一般に数十kJ/mol程度であり、共有結合の10分の1以下の強さしかありません。しかし、この絶妙な結合力のおかげで、水の沸点が高く保たれ、DNAの二重らせん構造が容易に開閉できるという生命維持に不可欠な性質が生まれています。