スーパーの特売チラシや店頭で、牛乳が1本300円に迫る勢いを見せるなか、乳飲料が150円〜180円前後という破格の安さで提供できる背景には、酪農と乳業メーカーが抱える構造的要因が存在する。乳飲料が安い理由を読み解く鍵は、原材料の調達コストと配合比率にある。
牛乳は「生乳100%」でなければ名乗れないため、酪農家が生産した新鮮な液体生乳をそのまま買い取り、チルド状態で速やかに工場へ輸送・殺菌・パック詰めしなければならない。近年の飼料価格高騰、光熱費の上昇、円安による設備投資負担は、生乳取引価格(乳価)の上昇に直結し、牛乳の店頭価格を押し上げている。
これに対し、乳飲料は「乳固形分3.0%以上」という条件さえ満たせば良いため、高価な国内産生乳を大量に使う必要がない。安価な輸入脱脂粉乳やホエイパウダー(乳清粉末)を水で還元し、そこに植物性油脂やパーム油、増粘多糖類を配合することで、牛乳特有のコクやまろやかさを工業的に再現できるのだ。
行動経済学の観点から分析すると、急激なインフレ下において消費者は「同じ見た目・同じ用途なら安いほうを選びたい」という家計防衛バイアスを強く働かせる。メーカー側もその心理に応えるため、純粋な生乳の比率を極限まで抑えつつ、味覚センサーを満足させる添加物配合技術を駆使して「牛乳代替品」としての乳飲料を安定供給している。安さの裏には、酪農の一次産業リスクを回避し、工業製品としてのコスト効率を極限まで高めたサプライチェーンのからくりが存在する。