アカデミー賞をめぐる最大の盲点は、「作品が優れていれば自然と受賞できる」という純朴な幻想です。賞レースの現場は、作品の質と同等以上に、綿密に計算された政治力学とキャンペーン戦略によって支配されています。
アカデミー賞の投票権を持つ会員は約1万人存在しますが、多忙な会員たちが数千本におよぶ全候補作を鑑賞することは物理的に不可能です。そこで展開されるのが、「FYC(For Your Consideration=ご検討ください)」と呼ばれる大規模なプロモーション活動です。
業界紙『Variety』や『The Hollywood Reporter』への全面広告掲載、ロサンゼルスやニューヨークでの会員向けプライベート試写会、監督やキャストを招いた豪華なレセプションパーティーなど、ノミネート獲得のためだけに各配給会社は数千万〜数億円規模の予算を投じます。過去に日本代表として国際長編映画賞にエントリーされながら惜しくも候補から漏れた多くの良作は、配給会社の資金力不足や米国内での宣伝ネットワークの弱さに泣かされてきました。『ドライブ・マイ・カー』や『ゴジラ-1.0』が壁を突破できたのは、現地の有力配給会社(Sideshow/Janus FilmsやToho International)が周到なPR戦略を展開し、口コミの火種を爆発させた結果にほかなりません。