インターネット上の掲示板やSNSで散見される「ボラ=泥臭い」というイメージは、決して根も葉もないデマではありません。ただし、それは「生息していた環境と食性」に完全に依存した現象です。ボラは雑食性であり、海底の泥表層に堆積した有機物(デトリタス)や付着珪藻を泥ごと吸い込み、砂嚢(幽門)ですり潰して消化・吸収する特殊な摂食生態を持っています。
そのため、工場排水や生活排水の影響が残る都市近郊の閉鎖性内湾、運河、河口域に居着いている個体は、底泥に含まれる臭気成分(ゲオスミンや2-メチルイソボルネオールなど)を体内に取り込んでしまいます。これらの化合物は脂溶性が極めて高く、筋肉や皮下脂肪に強固に沈着するため、一度身に移った悪臭は通常の水洗い程度では決して抜けません。これが「湾内ボラ」を食べた人々が生涯にわたるトラウマを抱えてしまう科学的根拠です。
対照的な存在が、外洋の澄んだ海水で育ち、晩秋から真冬にかけて外海を回遊する「沖ボラ」です。外洋を力強く泳ぎ回る個体は泥を吸う必要がなく、プランクトンやきれいな藻類を摂取しているため、泥臭さは微塵もありません。市場で高値で取引されるのは、まさにこの沖合で定置網などによって水揚げされた個体です。