消防署の前を通りかかった際や災害報道の映像で、隊員ごとに防火衣の色が異なることに気づいた読者も多いはずです。国内で運用されている防火衣には、主にゴールド(タン・ベージュ系)、黒・濃紺系、そしてオレンジ(橙色)系が存在します。これらは決して見た目の格好良さだけで選ばれているわけではありません。
かつて日本の消防界では、汚れが目立たないという理由から黒や濃紺の防火衣が主流を占めていました。しかし、2010年代以降から現在にかけて急速に普及したのが「ゴールド系(無染色アラミド生地)」です。この色変更には2つの極めて切実な現場の安全理由が存在します。
第一の理由は、火災現場での熱線(輻射熱)反射率の高さです。黒系統の生地は熱を吸収しやすいのに対し、明るいゴールド系は熱線を効果的に跳ね返し、衣服内部の温度上昇を物理的に遅らせることができます。
第二の理由は、「有害物質(煤・有害化学物質)の付着を即座に視覚化する」という職業病予防の観点です。火災現場の煙には多数の発がん性物質が含まれています。黒い防火衣ではどれだけ煤が付着しているか判別できませんが、ゴールド系であれば現場活動後の汚染状況が一目で分かります。これにより、「現場から戻ったら直ちに除染洗浄を行う」というプロトコルが徹底され、隊員の長期的な健康被害を防ぐ役割を果たしています。
なお、救助隊(レスキュー隊)が着用する活動服や一部の防火衣に見られるオレンジ色は、煙中や倒壊現場における「最高レベルの視認性確保」を目的としており、要救助者や指揮本部からの位置把握を容易にしています。自治体や部隊ごとの色の違いは、活動特性と安全思想が導き出した必然の選択なのです。