長年、アウトドア愛好家の間では「ブヨがいる川は水が綺麗な証拠」と語り継がれてきました。生物学的に見て、ブヨの生息環境と発生条件が水質に強く依存しているのは紛れもない事実です。ブヨの幼虫は水中に溶け込んでいる酸素を豊富に必要とし、渓流の岩肌や水草に吸着しながら、流れてくる藻類や有機物をブラシ状の口器で濾過して捕食します。そのため、生活排水で極度に富栄養化し、溶存酸素が欠乏したドブ川では生きていけません。
しかし、綺麗な渓流や山間部に生息する理由がそのまま「市街地に近い場所にはいない」という安心材料にはならなくなっています。国土交通省や各自治体による継続的な水質改善事業が実を結び、かつて水質汚濁が叫ばれた都市部近郊の一級河川中流域や支流でも環境基準が劇的に向上しました。その結果、市街地から車でわずか30分圏内にある親水公園、オートキャンプ場、ゴルフ場に隣接する小川、さらには整備された農業用水路にまでブヨの繁殖圏が広がっているのです。
2026年現在、キャンプ場検索サイトやSNSの投稿を分析すると、「高規格で芝生が綺麗なキャンプ場だったのに、足首を数十箇所噛まれた」「名水百選に選ばれるような山奥ではない平野部の川辺で被害に遭った」という報告が急増しています。人工的に整備された水路であっても、適度な流速と清浄な水流が保たれている場所は、ブヨにとって格好の産卵・生育スポットへと変貌を遂げています。