衣類の繊維がシワを記憶してしまうのは、分子同士を結びつけている「水素結合」が乱れた状態で固定化されているためです。この結合を解くには「適度な熱」と「水分(蒸気)」を同時に与え、分子構造をほぐした直後に「引っ張って整えながら冷ます」という一連の物理的プロセスが欠かせません。
多くのユーザーが陥る失敗は、空中にぶら下がった衣類に対してただノズルをかざし、蒸気を噴射して満足してしまう「蒸気の当て逃げ」です。服の端を片手で引っ張らずに蒸気だけを浴びせても、繊維はほぐれるだけで形を整える外力が加わらないため、乾いた瞬間に元のシワだらけの形状へと戻ってしまいます。
素材特性のミスマッチも見落とされがちな盲点です。ポリエステルやレーヨンなどの化学繊維、あるいは適度な湿り気で復元しやすいウール製品はスチーマーだけでも目に見えて復元します。しかし、綿100%や麻の厚手シャツは水素結合が極めて強固であるため、単に蒸気を吹きかけるだけでは太刀打ちできません。強い圧力(プレス力)を伴わない限り平滑な平面を再現しにくく、この基本原理を把握していないことが「全くシワが伸びない」という強い不満に直結しています。