腰パンの起源を巡っては、インターネット上でも長年さまざまな言説が飛び交ってきました。その中でも最も有力かつ歴史的事実として立証されているのが、アメリカ合衆国の刑務所発祥説です。
米国の一部の刑務所や拘置所では、収容者の自殺(首吊り)防止や、受刑者同士の喧嘩における凶器化を防ぐ目的で、ベルトの着用が厳格に禁止されていました。さらに、支給される囚人服は個々人の体型に合わせたものではなく、ワンサイズ展開や余剰在庫のオーバーサイズであることが日常茶飯事でした。その結果、ベルトのないブカブカのズボンはどうしても腰骨の下までずり落ちてしまい、意図せずして「サギング」の原型が生まれたのです。
刑期を終えてストリートに戻った元受刑者たちは、過酷な刑務所生活を生き抜いた「タフさの証」や「権威に屈しない反骨のシンボル」として、シャバに出てからもその着こなしを継続しました。このスタイルに着目したのが、1980年代後半から1990年代にかけて台頭したヒップホップカルチャーのアーティストたちです。彼らはゲットーの現実や制度への怒りをラップに乗せると同時に、ヴィジュアル面でも刑務所発祥のサギングファッションをステージ衣装やミュージックビデオで誇示しました。
なお、ネット上で時折見られる「刑務所内で同性愛の相手を募るサインだった」という俗説については、社会学者や黒人文化研究者のフィールドワークによって後年意図的に流布された都市伝説・バッシング目的のデマであることが明らかになっています。腰パンの本質は、あくまで制度的拘束から生じた副産物が、過酷な現実をサバイブした証へと転化された文化の軌跡にあります。