咲花温泉を訪れる旅行者の多くが息をのむのが、浴槽に満たされた神秘的なエメラルドグリーンの湯です。「入浴剤を入れているのではないか」「写真の加工ではないか」といった疑念を抱く人もいるようですが、この色彩は100%天然の化学変化が生み出す自然の造形美にほかなりません。
温泉分析書の科学的データに基づくと、佐取館の泉質は「含硫黄―ナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩温泉(弱アルカリ性低張性高温泉)」に分類されます。地中深くにある湧出直後の源泉は、空気に触れていないため完全な「無色透明」です。しかし、湯口から浴槽へと注がれ大気中の酸素に触れることで、溶存している硫化水素イオンが酸化され、極めて微小な「コロイド状の単体硫黄」へと変化します。
この微粒子が湯の中に漂うことで、太陽光や照明光のうち波長の短い青い光を選択的に散乱させ(物理学でいうチンダル現象およびレイリー散乱)、温泉水本来の淡い黄色味と混ざり合うことによって、人間の目には鮮やかなエメラルドグリーンとして知覚されます。さらに、気温の急激な低下や湯の滞留時間、天候や湿度によって酸化の進行度が異なるため、日によっては淡い緑色、乳白色の白濁、あるいは透き通った青緑色へとドラマチックに色彩を変貌させます。
効能面においても、この弱アルカリ性の塩化物・硫酸塩泉は「三大美肌泉質」の特徴を兼ね備えています。弱アルカリ性の成分が肌の古い角質をやさしく軟化させて洗い流し、硫黄成分がメラニンを分解する働きをサポート。仕上げに塩化物成分が肌の表面に塩のベールを形成して水分の蒸発を防ぐため、入浴後はしっとりとした潤いが長時間持続します。温泉愛好家の間で「一度浸かると化粧水が不要になる」と評される背景には、こうした緻密な温泉化学の裏付けが存在します。