日本における牛乳や乳製品の本格的な歴史は、この南房総市大井(旧・嶺岡牧)から始まりました。その仕掛け人となったのが、享保の改革で知られる江戸幕府第8代将軍の徳川吉宗です。
享保13年(1728年)、吉宗はインド産の白い牛(白牛)3頭を長崎経由で輸入し、幕府直轄の牧場であった嶺岡牧(みねおかまき)で飼育・繁殖させました。当時、仏教的な肉食忌避が根強かった日本において、牛は使役用が中心でしたが、吉宗は牛の乳を用いた滋養強壮薬や保存食の開発を命じます。こうして誕生したのが、日本最古のチーズや練乳の原型とも称される「白牛酪(はくぎゅうらく)」でした。
嶺岡牧で製造された白牛酪は、大名や幕臣の間で結核や疲労困憊に効く高級薬として重宝され、庶民の手には届かない幻の逸品とされていました。園内の中核施設である「酪農資料館」では、当時の白牛の飼育環境、吉宗が下した命令書の写し、江戸時代の搾乳道具や近代酪農への変遷が当時の写真や実物資料とともに分かりやすく展示されています。何気なく訪れた観光客が「日本の酪農のルーツがこんな房総の山あいにあったのか」と驚き、知的好奇心を満たされるスポットとなっています。