これほど危険性が指摘されながら、なぜ行政や関係者は解体に踏み切ることができないのか。その核心には、「巨額の解体費用」と「権利関係の迷宮」という、日本の放置不動産問題が抱える最悪のボトルネックが存在します。
第一の壁は、天文学的な撤去コストです。全高約73メートルという超高層ビルに匹敵する巨大仏の解体には、一般的なビル解体とは比較にならない特殊技術が要求されます。超大型クレーンの設置、足場の仮設、破砕時の粉塵・騒音防止対策、さらには大量の産業廃棄物(コンクリートガラ・有害物質を含む建材)の適正処理を含めると、解体費用は最低でも15億円から20億円以上に跳ね上がると試算されています。一地方自治体である加賀市の年間予算規模から見ても、単独で捻出できる金額ではありません。
第二の、そして最も厄介な壁が所有権の所在です。かつて兵庫県淡路島で問題となった「世界平和大観音像(高さ約100メートル)」の場合、所有者が死亡して相続人全員が相続放棄した結果、最終的に土地・建物が国庫に帰属し、国費約8億8000万円を投じた行政代執行による解体が実現しました。しかし、ユートピア加賀の郷の場合、土地や建物の権利が宗教法人、旧運営会社の債権者、複数の登記名義人の間で複雑に入り組んでいます。憲法が保障する「信教の自由」や私有財産権の壁が立ちはだかり、行政が安易に代執行へ踏み切れない法的な縛りが存在するのです。