本作の脇を固めるキャラクターたちにも、物語を重層的にする緻密なバックストーリーと伏線が張り巡らされています。
元気いっぱいに見える少年ラッセルですが、劇中の何気ない会話から両親が離婚している複雑な家庭環境が浮かび上がります。「お父さんはいつも忙しくて会えない」「フィリス(父親の再婚相手または交際相手)がお母さんに電話するなと言っている」と語る場面があり、ラッセルが「お年寄りお手伝いバッジ」に固執していたのは、授与式に来てくれるはずの父親の愛情を確かめたかったからでした。孤独な老人と、居場所を求める少年の心の欠落が互いを補い合っていく構造になっています。
また、人懐っこい犬のダグが首につけている「犬の思考を言葉に変換する翻訳首輪」は、かつて天才冒険家チャールズ・マンツが南米で発明した驚異のテクノロジーです。マンツが率いるドーベルマンのアルファをはじめとする凶暴な犬軍団が知的な音声でカールたちを追い詰めるのに対し、ダグの純粋でストレートな愛情表現(「ご主人様、大好き!」)は、孤独なカールのかたくなな心を溶かす重要な役割を果たします。
さらにビジュアル面でも巧みな伏線が存在します。頑固で変化を拒むカールの輪郭や眼鏡、家具は「四角形」で統一されているのに対し、活発で冒険心に富むエリーやラッセル、風船などは「丸型」でデザインされています。物語が進みカールが心を開くにつれ、身の回りに丸みを帯びたモチーフが増えていく視覚的演出も見逃せません。