日常会話では混同されがちな「民族衣装」と「伝統衣装」ですが、服飾史や文化人類学の視点から見ると明確なニュアンスの違いが存在します。
民族衣装(Ethnic Costume)は、特定の民族集団が言語や宗教、生活習慣を共有するアイデンティティの象徴として受け継いできた衣服を指します。たとえば、アイヌ民族のアットゥシや、スコットランド高地民族のキルト、アンデス地方先住民族のポンチョなどがこれに該当します。国家という枠組みよりも、血縁や部族の帰属意識を強く反映しているのが特徴です。
対して伝統衣装(Traditional Costume)は、ある国や地域社会において、冠婚葬祭や公式行事などの儀礼用、あるいは国民的シンボルとして長年定着してきた装束を包括する概念です。歴史のなかで支配層の宮廷服や民衆の作業着が洗練され、やがて「その国の正装」として制度化されたものが多く見られます。民族衣装と伝統衣装の違いを理解することは、その土地の政治や社会構造の変遷を読み解く第一歩となります。