英語圏において、「That car is a lemon.(あの車は欠陥品だ)」という表現は日常的に使われます。アメリカには「レモン法(Lemon Law)」と呼ばれる、重大な欠陥を抱えた新車や中古車の購入者を保護する法制度が連邦レベルおよび各州で制定されているほどです。
なぜみずみずしいレモンが「役に立たないもの」「粗悪品」の代名詞となったのか。その背景には、人間の認知心理と商品経済が結びついた2つの有力な説があります。
第一に、「外見と中身の落差」です。レモンは外から見ると鮮やかで美しく、甘い果実のように見えますが、実際に口へ入れると強烈な酸味で顔をしかめることになります。この「期待を裏切られた時の不快感・落胆」が、外見はピカピカなのに走らない中古車のメタファーとして1900年代初頭の米国スラングに定着しました。
第二に、経済学者ジョージ・アカロフが1970年に発表しノーベル経済学賞を受賞した論文『レモン市場(The Market for Lemons)』の存在です。情報の非対称性によって良品(ピーチ)が市場から駆逐され、粗悪品(レモン)ばかりが出回る構造を理論化したことで、経済学用語としても不動の地位を確立しました。